豚レンサ球菌病:Streptococcus
suis感染症
Diseases: Streptococcus suis infection
Streptococcus suis の感染は世界中で発生しているが、S. suisフリーの農場も存在する。S. suisは哺乳子豚、離乳子豚、育成、肥育豚に影響を及ぼす。S. suisは関節炎や神経症状、発育遅延、発熱、死亡の原因となる。
Streptococcus suis感染の原因
S. suisは特徴的なボート型(ピーナッツ型)をした、白血球などによる食作用を防ぐ莢膜と毒素を持つレンサ球菌の仲間である。少なくとも35の莢膜型が区別されており、このうちいくつかが特徴的な疾病の原因となる(血清型1は哺乳子豚、血清型2が髄膜炎、血清型14が関節炎)。
この病原体は実験室で簡単に培養できるが、すべての血清型を判別することは難しい。S. suisは多くの抗生物質や消毒薬に感受性だが、保菌動物の扁桃で512日間、9℃の環境中で25日間生存できる。S. suisは母豚から子豚に分娩時もしくは分娩後すぐに、また保菌動物と合流してから5〜25日以内にエアロゾルもしくは接触によって感染する。
S. suisは扁桃窩で増殖し、白血球に取り込まれて血流に乗り、脳や関節に到達する。S. suisは数時間で敗血症を引き起こし、感染した豚を死に至らしめたり、多くの場合で致死的な髄膜炎、また関節炎の原因となる。免疫応答も発現するが、血清型によって異なる。特に血清型2と14は人間に感染し、髄膜炎に伴う聴覚障害や死亡の原因となる。
S. suis感染の症状
血清型1は10〜14日齢の子豚に影響を与える。感染した子豚は発育が停止し、被毛が粗豪になり、発熱(40.6〜41.1℃)し、死亡する。痛みと熱感を伴う関節の腫脹がおこり、やがて硬直や運動失調、筋肉のけいれんなどが起こり、死亡する。レンサ球菌による心内膜炎の突然死も発生する。典型的には一腹で最大2/3の子豚が発症する。血清型2は3〜12週齢の子豚に影響を与え、潜伏期間は24時間から2週間である。
発生の初期は状態の良い子豚の死亡から始まる。40.6〜41.7℃の発熱と皮膚のほてりが生きている子豚に認められる。進行状態によって協調障害や震え、麻痺、遊泳運動、強直発作などの神経症状が認められる。臨床症状が認められてから4時間以内に死亡する。髄膜炎を発症した子豚は目つきがどんよりとし、皮膚のほてりや歩様の異常が認められる。斜頚もしばしば認められる。より若い子豚や時々母豚や母豚候補豚でも関節炎が発生する。
死亡率は豚群のロットによって1〜50%とばらつきがあり、また豚群の環境からの感染による発症率は0.5〜1%である。
S. suis感染の診断
血清型1の感染は10〜21日齢の子豚に多発性関節炎と髄膜炎、死亡が発生した時に疑われる。化膿性の髄膜炎、滑液で腫脹した炎症性の関節炎、心内膜炎と弁に粘液が付着している状態がしばしば病理解剖検査で観察される。S. suisは培養や塗抹標本によって確認できる。血清型2の感染は子豚に斜頚や目つきの異常、皮膚のほてり、強直発作やけいれん、麻痺、遊泳運動、強直発作などの神経症状に伴う歩様の異常、数時間以内での死亡が認められたときに疑われる。病理解剖では赤くなった筋肉や、赤く種題したリンパ節、腹腔内や胸膜にしっかりと付着したフィブリンと肺炎像が確認できる。脳の浮腫やうっ血が視認でき、脳脊髄液が濁っている場合がある。化膿性の関節炎が若い豚で認められる。顕微鏡検査で髄膜炎が確認できる。S. suis感染は培養検査で確認できる。分離した菌は生化学検査により種の同定ができる。血清型の判別には特別な血清反応の専門家が必要なため、検査機関に問い合わせる必要がある。
S. suis感染の治療とコントロール
感染した豚には抗生物質の注射を3〜5日継続する必要がある。ペニシリンが第一選択薬であり、アモキシシリン、アンピシリン、セファロスポリン、ST合剤などの抗生物質も効果的であるが、アミノグリコシドやテトラサイクリンは使用できない。
感染した豚は静かな豚房に移動し、必要があれば水や飼料を手給餌する。麻痺の認められる豚には直腸から生理食塩水を用いて水和させる。敗血症や髄膜炎、関節炎が進んだものはなかなか治療に反応せず、すべてのケースで治療開始から3日後に再評価するべきである。麻痺した豚は人道的に処分すべきである。
発症した豚と同居した豚は飼料添加もしくは飲水投与で治療するべきである。子豚での発生を予防するのは母豚からの隔離と分娩房を空舎期間中に薫蒸するのが効果的である。
分娩時に長期持続型のペニシリンを使用するのも予防策となる。より日齢の進んだ豚でのコントロールでは、発生の予想される期間の7日前から飼料にフェノキシメチルペニシリン75-100g/t もしくはプロカインペニシリン200-300g/t 添加し、飲水でアンピシリンまたはアモキシシリンを投与する。オールイン・オールアウトは発生の拡大を抑制する。薬治を併用した早期離乳は豚群からの撲滅に効果的だが、すべての豚を出荷し、消毒してから豚を再導入するのが最も信頼できるやり方である。